「鉄塔 武蔵野線」(銀林みのる)

あまりにもマニアック、きわめて特異な一冊

「鉄塔 武蔵野線」
(銀林みのる)新潮文庫

転校を控えた夏休み、
小学生の見晴は近所の鉄塔が
「異形」であることに気付く。
「武蔵野75」という番号札を
確かめた見晴は、
数字を遡った先には
「1」があるに違いないと考える。
見晴は電線を辿って
1号鉄塔への冒険を始める…。

本書は「少年の一夏の冒険物語」です。
と言ってしまえば
どこにでもあるのですが、
本書はかなり異質です。
「鉄塔」をめぐる冒険だからです。

近所の下級生・アキラを伴って、
電線をたどりながらの
冒険が始まります。
ときには道なき道を進んでいく
二人ですが、
やがて無情にも陽は暮れます。
二人は1号鉄塔に辿り着けるのか…。

本書にはこれでもか、というくらい、
鉄塔の写真が掲載されています。
もちろん、80号鉄塔から1号鉄塔まで
すべてそろっています。
鉄塔とはこんなに
いろいろな形があったのか。
今まで気付きませんでした。
そう、普通は気付かないことに
気付いてしまった主人公が、
何とかしてこの想いを
誰かに伝えたいと思う。
そこに焦点を当てた作品なのです。
もちろんそれは
著者の想いでもあるのでしょう。

それらの鉄塔の形状を、
子どもの視点から
「男性型鉄塔」「女性型鉄塔」などと
分類しているところは
子どものマニア視点です。
そして「碍子連」「ジャンパー線」等、
専門用語もふんだんに登場しますが
こちらは大人のマニア視点です。
両方がごった煮のように現れ、
そのアンバランス感も面白いのです。

さて、冒険は必ず波紋を呼びます。
この作品でも、当然のごとく
警察を巻き込んでの捜索がなされます。
しかし、見晴やアキラが
叱られる場面は一切描かれていません。
最後には大人たちから少年たちへの
粋な計らいがあります。
その点も読みどころでしょう。

あまりにも面白く、
あまりにもマニアック。
一気に読んでしまいました。
とはいえ、80本を1本も省略せず、
丁寧に描ききった本作品、
興味関心がなければ
途中で読みあきる危険を抱えています。
マニア心を十分に理解できる方
…多分、血液型A型の男性…でないと
薦めることが出来ない、
きわめて奇特な一冊です。
自分はマニアックだと
自覚しているあなた、いかがですか。

※調べてみたら、本作品は
 第6回ファンタジーノベル賞を受賞、
 映画化もされていました。
 しかし、平成9年刊の新潮文庫版は
 すでに廃版。その後、
 平成21年頃にソフトバンク文庫から、
 鉄塔の詳細な写真を
 約500点掲載した
 「完全版」なるものが
 出版されていますが、
 そちらも絶版中です。

※著者、銀林みのる氏は、
 本作以外には出版物はないようです。

(2019.7.19)

taotao7676さんによる写真ACからの写真

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA